林 魏堂 音楽制作ノート

NHK 503スタジオにて

Vol .1  暗闇の訪問者

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藤沢秋さんによる、創作ラジオドラマ大賞受賞作品である、本作品の脚本を頂いた時、ユニークな舞台設定を使って、「家族」という普遍的なテーマを巧みに炙り出した手腕に感動しました。

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同時に、10代の女性が主人公とは言え、音楽がそのアイデンティティーに寄り添うことは違うと直感したのです。

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この物語が描き出す、深刻なテーマを、登場人物たちとは一歩距離を置いた、アノニマスな奏者として紡ぎ出さなければならない。それには伝統的な楽器でスコアを書くことが最も効果的だろうと考えました。

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お話の内容は、私の個人的な原体験と重なる部分も多く、それを音楽という形に凝縮できれば、いくらか作品の役に立てそうな気がしました。そこを敢えて、すきバサミで軽めにするようなこともしませんでした。

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これまでオーディオドラマを聴いてきた経験から、映像を伴わない分、音に多くが凝縮されることが許容されると感じていたからです。

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幸い、素晴らしい弦楽四重奏団とオーボエ、クラリネット奏者が録音に参加して下り、録音は順調に進みました。ピアノとギターは私が演奏しています。

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結局、シンセやサンプラーはただの一箇所も使わず、全て生演奏でサウンドトラックが仕上がりました。

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しかし、何と言ってもこのドラマの真骨頂は、台本と俳優の皆さんのお芝居、そして素晴らしい演出と効果音です。

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効果音については、北村哲人氏の著書など読んで、知ったような気でいましたが、完成した作品を聴いてみると、例えば、踏切の音一つがこんなに世界を作るのか、と驚かされました。

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映像のない、オーディオドラマならではの醍醐味を、皆様にもお楽しみいただけたら幸いです。

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2017年5月

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